インタビュー記事 Vol.1 AstreX代表 平井良太氏

<AstreX製品の特徴>

また、製品の信頼性につながる電源装置の安定的な動作の実現には、極端な小型化と低消費電力が求められることから、小型かつ衛星運用期間に見合う適切な回路や冗長方式などの工夫が必要です。

平井「電子回路には、アナログ回路とデジタル回路の2つがあります。アナログ回路により、太陽電池からの受電経路の二重化とバッテリー充電回路の二重化を行っています。主要機器である無線機とOBC(オンボードコンピューター)への電力供給に関しては、受電電力制御とバッテリー充放電制御をこれらのアナログ回路のみの最小限の部品点数で実現しています。

なぜこのような工夫を施しているかというと、デジタル回路のOBCや無線機単体が故障すると衛星全体の故障に直結してしまう、という事態を防ぐためです。バス系の中でも特に重要な部分に関しては、デジタル回路に頼らず、アナログ回路を使用することで、放射線や超低高温に耐えうる設計となる手法を取っています。

一方で、全ての回路をアナログ回路に頼ると電源装置が大きくなってしまうため、適切にデジタル回路を組み込むというハイブリッドの形を取っています。これにより、放射線などの影響や誤作動などに強くなり、極めて少ない消費電力、省発熱を達成しています。以上が、AstreXの技術的な強みです。」

こうした設計上の工夫を凝らし開発された電源装置がより多くの超小型衛星に搭載され、その結果100%の成功率を誇るまでになりました。

平井「AstreXの電源装置は10機以上の衛星に搭載されています。この中で電源によるミッション失敗は一度も起きておらず、そこはAstreXの実績として自信を持っています。
宇宙は一発勝負なので、ある部品が故障したから修理しましょう、というわけにはいかないんです。電源は衛星全体の機能を支えており、電源が壊れるということは衛星全体の破綻と言えます。そういう点で、弊社の実績を加味してお声がけいただく、ということはありますね。」

*2 冗長力:万が一の事態に備え、代替機能を設計に組み込んでおき、故障した際にも継続的な運用を可能とさせること。また、その性能。

<超小型衛星の増加>

超小型衛星にフォーカスして電源装置を作っているAstreXですが、その背景には日本での超小型衛星の増加があります。一研究室レベルで作ることが十分可能な超小型衛星は、衛星開発の入門として位置付けられ、多くの大学や企業が開発に乗り出しています。

平井「私は10年ほど前から宇宙業界に携わっているのですが、10年前は衛星を自分たちで作るということはほとんどなかったんですね。当時、UNITEC-1という衛星がUNISECによって作られたのを皮切りに、ほどよし3号機、4号機*3が上がったあたりから爆発的に増えてったという印象を受けます。今ではもう企業であったり、大学であったりがどんどん参入してくるので、数が非常に増えているというのは実感しています。

今までにないような顧客から「衛星を作りたいので、電源装置を作ってほしい」と言われることもあります。「宇宙ってどう行ったらいいんだろう」というような潜在的な顧客が多いのも実感していまして、頻繁に相談を受けています。そう行った企業に対して「実は宇宙って今こういう風に利用できますよ」とお伝えすると「いくらくらいかかるんですか。それだけでいいんですか、それならぜひお願いします」というようなお客様は結構いらっしゃいます。」

*3 ほどよしプロジェクト:東京大学大学院工学系研究科(航空宇宙工学専攻)中須賀教授が中心研究者を務める「日本発“ほどよし信頼性工学”* を導入した超小型衛星による新しい宇宙開発・利用パラダイムの構築」プロジェクト。低価格化、短期間化を目指し、衛星の性能は「ほどほどで良い」というコンセプトからこの名がつけられた。
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